腕時計私怨-その奇妙な習慣について/岡村明子
たとえば
丸の内の横断歩道
腕に巻きつけられた
時
が刻まれる
雑踏
で
私だけが自由だった
大きな意味で
宇宙の時間は絶対であるので
自由にはなりえないのだが
もうすぐ昼の十二時
時報が
テレビ局のタイムキーパーが
オフィス街にある食堂の主人が
先生が教科書を閉じるタイミングを見計らっている子供たちが
待ち構えている
長針が
秒針が
いよいよというとき
を
私は知らずにいられるのだ
私はハトではないから
ぽっぽー
と言わなくていい
あるとき
急に恐ろしくなったのだ
どうして
時
を身に付けなくてはならないのか
腕を繋がれた
時
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