てんとう虫/菊西 夕座
 
転倒しそうで、転倒しない、てんとう虫。
背が裂けてわれ、血がふきだすかと思いきや、
背中はふたつの羽となり、身はかるがると天に舞う。
そのようにして文字虫も 裂けて詩へとなればよい。

重かったというその「背」には、「北」なる羽がついている。
左の「才」の羽ばたきは、「片脚あげていざアクセルジャンプ」
右の「ヒ」なる羽ばたきは、「手足をうしろへ反って崖をとぶ」
下半のあまった「月」でさえ、「北」からはねて南天に浮く。

背をまるめてばかりいた てんとう虫たちの冴えない日々。
色あざやかな身なりのうちに、黒々とした死の斑点をうかす。
それは空っぽな実在をぼかす 刺された小指たちの血判。

軽すぎたというその斑さえ 「王」と「王」とに分かれゆき、
いっぽうが天王むしと舞いあがれば、かたほうも天王むしと飛びたち、
のこされた「文」も虫に預かり、辛うじて蚊の詩「ブ〜ン」に転じる

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