猫/妻咲邦香
 

君は座っている
石畳の上、足を投げ出して
急な階段、手摺りに凭れるようにして
座っている
座って、僕を見ている
真っ直ぐに
作りかけの猛獣のような目で
悟り切った爬虫類のような息をして
見ている
それは僕ではなかっただろう
それでも見ている
石畳の上に、座っている
夜は濡れている
濡れて光っている
鞄の紐が肩からずり落ちて
でもそんなことお構いなしに
座っている
冷たい風も来ないままに
優しい時も待てないままに
見ている
黙って
見つめている
僕を
僕じゃないものを見ている
呼んでいる
今日、消え失せてしまうものを
呼び寄せている
弔うよう
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