どっちも狂ってた/竜門勇気
ードと
ねとねとするペースト
木の枝みたいに硬いガムを喜ぶとき
母は溶けた氷のような顔をする
落ちてくるしずくがどこにもいかないように
何度たたかれても同じことをする
母は笑う
私はいつでも大真面目だ
少し、心外だよ
ほんとは猫を飼いたかった
夫の反対がどうしても抗い難くて
小さな子犬を迎えることになった
真っ黒な雑種の犬はほんの少しだけ白い毛が混じっていた
十五年間いろいろなことがあった
わたしは一人ぼっちになった
老いた犬が毎日涙を拭いに来る
あなたなんか望みじゃなかったの
あなたはわたしの欲しかった過去じゃなかったの
習慣になった暮らしのなか
老いた
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