向こう側は/坂本瞳子
古窓の向こうに貼り付く蔦の葉に
監視されているようで
居心地の悪い部屋の中
しばらくは身動きもせず
ただ辺りを見回している
微かに聞こえるのは犬の遠吠え
否、渡り鳥の羽ばたきだろうか
寒いとか暑いとか
そんな感覚さえなくなってきた
言葉を発さないからか
なんだか喉の奥が疼いている
音を立てたら怒られるのではないか
いっそのこと怒られたい気もしている
重く閉ざされ扉は
この向こうを想像すらさせない
あまたの魑魅魍魎が蠢いているのか
それとも奈落の底へと続く穴があるのみか
空恐ろしい夢想に苛まれ
いまだ一歩も動けずにいる
水も食事も与えられているのだから
いまはまだここでこうしている方が
いいんじゃないかとさえ思っている
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