ランナーズハイ/服部 剛
 
ジョギングで夕暮れの道をゆく 
いつもと同じ川沿いの道

途中で道をそれて
無心のままに
坂を上っては下りているうちに・・・
ふと、見知らぬ場所へ出て
立ち止まる  

そこはどうやら 
古(いにしえ)の詩人達が暮らしたという
馬込文士村らしかった

ぽつんとひかる街灯の
さわさわ・・・囁く葉群れの 
先に入ってゆけば
夜風になった先人の
声も聴こえそうな気がしたが
臆病者のわたくしは
日が暮れ始めたのを言い訳に 
道を引き返して
ふたたび、走った

坂を上っては下りるうちに・・・
心は空(から)になってきて
声なき声が、囁いた

――道は毎日あたらしい 

誰の声だか知らないが
脳裏に入って、離れない 

やがてよれよれ 
くたびれはじめた僕の傍らを
ウーバーイーツの自転車が 
すーーーっと過ぎて
夜の帳(とばり)の向こうへ 
小さくなっていった







戻る   Point(1)