約束/服部 剛
テレビの中で
人々の行き交う雑踏の渦に
少年は独り立ち尽くして
涙をこぼしている
「なんで僕はここにいるの?」
私はテレビの外から
少年に音の無い声で語りかける
「この世界に
放り出された君は可哀想なのか?
地上にいる意味はあるのか?
君の名で生きるのが一度なら
探してみないか
遠い過去から
交わされた約束を」
私の声は届かない
けれど
少年は一度
こちらをふり返ってから
涙をふいて、歩き出す
──心の方位磁針の指す方へ──
少年は何処からか奏でられる
ピアノの音を
風のまにまに聴くだろう
鼓動がリズムになるように
歩調が旋律になるように
私はテレビの外から
見守っている
明日へのびる道を歩み始め
段々小さくなってゆく
少年の背中を
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