私はあなたの静脈です/竜門勇気
 
て揺れた
「あの中に放り込まれたら、気持ちいいと思う?」
白い水煙の中心を指差して笑顔を作った
”まだ心があるうちにそうすべきだと思う”
どうして?口に出す前にネズミは喋った
”わからないから”
アブクを立てて水路の上でゴミクズが流れる
意味のない会話がふさわしくて、
何もわからない噴水の死骸を自分の静脈と見てる

帰ったほうがいい
なんにせよ熱くて死にそうだ
”帰れる?”
「帰れない。どうやってここに来たかも思い出せない。」
「まるでさっき生まれたみたいに心細いよ。」
”泣くの?”
「少しだけ。」

十六時を記念して噴水が吹き出した
斜めに切り分けられた太陽がどこかにあって
それがそのへんに浮かんでるはずだ
「僕はあそこから来たのかもしれない。」
”そんなわけない”
「僕はあそこにしか帰れないのかもしれない。」
”そんなことない”
「僕は大切なものを全部誰かに渡しちまった。」
”それはよかった”
ネズミは歩き出した
”私はあなたの静脈です”


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