音時計/プテラノドン
 
 すると少年の手の中、ひっくり返された壜の中から旋律が溢れ出した。
 旋律はゆるやかに、酒場に居た者たちの胸中へと、
 その音符が移しかえられるようだった。
 そして皆は心の、大切な部分で聞いている。
 少年は壜の中で音たてて、さらさら流れる音符の一つ一つをじっと見つめていた。
 その小さな肩に手をかける人がいた。ピアニストだった。
 彼は微笑みながら、
 「物語を信じなさい」と言った。
 「そこは新しい故郷!」店主がまたツバを飛ばしてまくし立てた。

 少年は顔をこすりながらベットの中で眠っている。それは若木の香りが窓際に漂い、
 五月の風が蛙や木々の声を運びくる夜。夢の中では店主が
 「いずれ音時計は音符が崩れて砂になるんだ」と少年に語る最中だった。
 そして、少年の手の中、ずっと握り締められていた砂時計が
 ベットからことりと落ちる。床の上を転がった瓶の中から、
 旋律がかすかに聞こえた。月が明るく部屋の中を照らしている。
 少年は微笑んでいる。
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