ハッピーエンドの小説なんか読んだことがない/奥畑 梨奈枝
ハッピーエンドの小説なんか読んだことがない
ホッとした後に生活なんか送れるのだろうか
眠れない夜に読書をするなんていうのは
かえって明日が怖くなる
毎日裏切り者たちと仕事を共にして
罰を受けたことにすら気付かない
そんな魔物たちと電車に乗る
地獄はもっと恐ろしいのか
火葬場で燃やされた人は静かだった
疲れて帰宅しても俺の場合
風呂場に悪魔が棲んでいて
洗おうとすると俺の身体は何十分も
洗われる価値を奪われて
閉じ込められてしまうのだ
塗り込まれた記憶が
染み出してくるように
何も見えなくなる
その後
恐怖で冷えた身体で
冷めた湯船に浸かって
それからようやく身体を拭くのだ
眠れない夜に読書をする
なんていうのは
かえって明日が怖くなる
ハッピーエンドの小説なんか読んだことがない
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