鬼女遠景/石と花/ただのみきや
 
皇女は嵐を飼っていた
嵐は乳房に纏わっていた

どこからか瑠璃色のヤンマが静かに
目交いにとどまっている

まやかしのような口元が匂う

大路を抜けて山へと折れる道
狂わす水がいざない後退りする

爪先にまじないの朱
土器のような獣の欠片に当たるまで

乳をふくませて
皇女は正気の結びをほどく

千年を超える天井の暗闇から
ばらばらと降って板の間を鳴らすもの

飢え渦巻き己を絞る
赤子を咥えて母音を洩らす


水槽に色が溶け出して
金魚は透きとおる
すべての視線がすり抜けるのは
はね返す時の痛みとは違う
剃刀で切られるはっきりとし
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