裸の羊/こん
 
たださまようだけではなく
裸 なのだ
ただし
きらりんと光る瞳を持つ
裸の羊
 
裸のために役立たずと裸のために群から追われ
けれど裸のために僅かな陽射しにぬくもりに
狂喜する

傷だらけになって鉄条網はくぐりぬけた
自由の国へ自由の原へ
孤独気ままなふりで厳しい寒さに
青ざめたままの笑顔で野を飛び跳ねる

誰かの眠りの為に数えられたりしない

桃色の肌がいつしか風雪と埃にひび割れて
なにをしにきたのか なにをしにいくのか
とうにわからないまま空を仰いでいても

足跡は残らなくとも君は生きた と
かすかに聞こえる羊飼いの声

生きるための小さな嘘を
踏みつぶしたいろんな命を
冷え切った体にまとい
大地にゆっくりと倒れてゆくその
体は

やがて早春 まみどりの芽の
凍土を破るちからの一翼を
担うはずだ

誰にも知られずとも
確かにそこにいた
さいはての国の
さまよえる
裸の 羊








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