その時その瞬間/ひだかたけし
 
逃れ去っていく
逃れ去っていく記憶の
その核心を掴もうと
広がる鉛の海を泳ぐ、泳ぎ続ける
 
 失われた薔薇の花と団欒
 終わった関係と更地
 虚脱の時を刻む秒針

静まっていく
静まっていく魂の
その内実を見極めようと
開ける暗黒の宙を漂う、漂い続ける

 消えた赤い舌と墓石
 現れる問い掛けと透明な流体
 永続の時を移動する銀河

〈自由は魂の積極的な内的活動だけにあり
外界に依存する限り
オマエは絶望と希望の円環をループし続ける〉

その時その瞬間、私は何かを体験した
その時その瞬間、私は何かと一体化した

思い出せない思い出せない

思い出せるのは、
遥か遠く黄金に輝く巨大な岩塊
濃淡紫の雲に包まれた灼熱の太陽
それに熱い熱い祝福の抱擁
ただそれだけなのだ。






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