風に吹かれて/坂本瞳子
 
あれはどうしたことだろう
ベランダの物干しに
靴下がひとつのみ
寂しそうにぶら下げられている
一足ではなく片方だけ
その柄からして左足用の靴下だろう
右側はどうしたのか
というよりも
どうして左側だけが洗われたのか
乾かされているだけなのか
左の靴下だけが汚れてしまったのか
そんなことはあるだろうか
あってもおかしくはないけれど
左の靴下を洗うならば
一緒に右の靴下も洗っても
よかったのではないだろうか
そうしなかった訳があるのだろうか
風に吹かれて寂しそうな左側の靴下を
通りがかりに見かけて寂寥の想いに苛まれた
雨がいまにも降り出しそうな空の下
土曜日の午前が過ぎ去る頃
誰かの左の靴下に
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