ホオジロと会話した朝/山人
業者のプレハブ小屋の屋根にホオジロが盛んにさえずっていた。藪スズメと俗称される地味な鳥で、単調な鳴き声で鳴く小鳥だ。車道と藪のはざかいに棲み、あたりまえによく見られる生き物である。まるで喉の奥まで見える様な近さでありながら、彼はさえずっていた。歌うというよりも、必死である。思わず私は話しかけた。何か話したのだが、何を言ったのかは覚えていない。私と彼の近さは自然に生を育む小鳥と、俗世界の人間の距離の域を外れ、間近であった。もしかすると、彼にとって私の存在は空気のようなものであったのであろうか。彼が仮にそう思ったとしても、私は彼を恨むことはなかった。言えることは私は彼と会話し、彼もそれに呼応し、話してくれたのである。しかし、彼が私に言った言葉は果たして何だったのであろうかと考えると小鳥語がわからない私には理解する術はなかったのである。
その後、夕食無しの二泊の若夫婦のような客の朝食の準備を始めたのである。小付けとしてほうれん草の胡麻和えを計画していたが、夕食用の天ぷら用のマイタケやナスやカボチャなどが余っていたので、それをソテーにして甘辛く味付けしたのである。
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