枯れ木の孤独/山人
 
残雪の雪堤に生える、枯れた大木の一日は、花曇りの朝にはじまる
若い山毛欅たちの、狂おしい花粉が、残雪の上にばらまかれ、禁断の春をむかえている
息をしなくなって何十年も経つ、その山毛欅の大木は、すでにキツツキに啄まれるほどの虫を蓄えることもなく、土になりかけながら、しかしまだそこに立ちたいという意志だけで立っていた
彼は孤独ではあったが、匂いたつ季節の間合いを感じていたし、私が孤独に通過するたびに息を吹きかけてくれていた
ふたたび次の年まで会うことはない
彼の一年がはじまり、私の一年がはじまる
それぞれが膨大な孤独の中で、はかない夢の息遣いを感じていた
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