雨の日の憂鬱/山人
 
 傷口に触れないこと、これは治癒するためには大切なことなのかもしれない。会話を発することで、何かが変わるとは思えず、私と妻は口を開くこともなかった。
 土曜の早朝、私は五時前に県境の無人駅に出向き、ストーブを着火させ、なにもすることもない、ただの留守番仕事に精を出し、朝六時過ぎに其処を出て一旦自宅に朝食を摂りに戻ったのである。
 酒を飲まなければ常に貝である父は、カリカリと音をたて沢庵と飯をさらいこんでいる。なにかを考えているのだろうが、アルコール飲料が脳内に廻らなければ口は閉ざされたままだ。
 母に線香をあげ、外の雪の除雪具合を眺めることが日課でもあったが、あれ以来除雪をしていないため、ど
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