詩の日めくり 二〇一九年八月一日─三十一日/田中宏輔
と同時に、他者に情けをかけてやることができる動物であることをも、きちんと描き出しているのだった。生徒に、いきなりP・D・ジェイムズを読むように言うのはやめておこう。ある程度の生活年齢を過ぎていないと理解できないだろうから。 ジャック・ヴァンスの魔王子シリーズの最終巻は、シェイクスピアの『オセロウ』に匹敵するぐらいの名作であった。P・D・ジェイムズを読んでいて、しばしば、シェイクスピアの悲劇が思い出された。どこが共通しているのだろう。ああ、わかった。人間の魂の二重性である。『オセロウ』に出てくるイアーゴウにさえ、ぼくは人間の持つ厚みを感じるのだが、それは、シェイクスピアが巧みに、読み手であるぼくが感
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