日記代わり/山田せばすちゃん
おう、と社長は老眼鏡をかけなおす
なんだ、これっぽっちしか値引きしてないじゃないか
俺はお前の高校の先輩になるんだぞ
いや、社長、勘弁してください、いっぱいいっぱいですから
それからこれ、と僕は自分の所属している同人誌の最新号を手渡した
おう、富山のYさんのところに入ったのか
金沢からはIさんと、お前と、なんだT君もいるじゃないか
お茶を持ってきた奥さんが、あらあなたも何か書き物を?と聞く
現代詩だよ、こいつは
あらそれじゃお父さんと同じじゃないですか
社長がね、入れてくれないんですよ、同じ雑誌に
お前は駄目だって
こんなもんはなあ、顔見知りとやるもんじゃねえよ
ストーブの値引きと詩の話が一緒にできるか
それからお茶を飲み終えて僕が家を出るまで
社長は一言も詩の話はしなかった
雨が降っているのにわざわざ傘を差して
玄関の外まで見送ってはくれたのだけれど
一言だって詩の話はしなかったのだった
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