花の墓標/嶋中すず
 




夕暮れに
ひめりんごの花弁が
雪のように散ってゆき
落ちた先は
あの子の眠る
寒い土の上でした


最期の言葉も
交わさぬまま
突然
冬空へと消えた
一つきりの灯
それでも時は
流れて往き
秋にはあの子の大好きだった
小さな林檎も
実るでしょう


朽ちかけた首輪を
そっと拾い上げ
「死んでまで
繋がれていたく
ないわよね…」
と呟いた母の
その声が
白く儚く散りつもる
あの花弁と
なんだか似ていて
わたしは涙を
噛み殺しては
首輪ばかりを見つめて
いました






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