泥/あらい
 
 なにもありゃしないのに、主は
 我侭に置いて乾きを春と架け渡すと華を添える
 その情火
 充てがわれた詫び状のほかに展翅に及ぶ
 蒼白の空、開け放たれた単眼の先を膨らませ
 歪められたヒナギクの白痴美、屏風の前で色を掃く
 腐食した意思は、巌のような所懐を絡み
 薄く引き伸ばしただけの命が貪り合い
 地獄に駆り立てる
 紙一重
 分解されかけた?が、元に戻ることはないように
 見ず知らずに訪れた劣等亭に誘い込む
 平らげられた活餌に齧り付かれる耳朶は盲目的に
 なにかを、
 壊滅した差異の余韻がざらついた手で蠢く
 あらかた友のような温みを丸め込んで、誑し込む
 
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