タオル/坂本瞳子
 
寒空にさらされたタオルが一枚

人の気配がしないベランダに
タオルが一枚だけ干されている
顔や手を拭くサイズのタオルは
新しくも古くも見えない
ただの白色のタオル
なぜほかの衣類などはまったくなく
タオルが一枚だけ干されているのか
あのタオルはいつからあそこにああして
干されているのだろうか
今朝もあそこに干されていただろうか
そんなこと
自分も含めて誰の目にも留まらなかったのだろうか
あの家の主はやがて帰って来て
ちゃんとあのタオルを取り込んであげるのだろうか
そしてていねいに折り畳んで
適切な場所にほかのタオルと一緒に格納してあげるのだろうか
そしてまた取り出して顔や手や身体を拭いたりして
洗濯して干してあげるのだろう
次回はほかの衣類やシーツや
ほかのタオルと一緒に洗って干してあげるだろうか
タオルの主はあれを大事にしているだろうか
こんなことを気にしてもなんにもならないのは分かっている
けれど気になってしまうんだ
あのタオルの行く末が
こうして出会ってしまったから
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