わが弟は雪男/福岡サク
わが弟は師走の生まれ、
誕生日には雪が降る。
故郷が初雪みるのは大抵、
わが弟の誕生日。
わたしと違って律儀なやつで、
盆と正月に帰省する。
うわばみの父と呑んで笑って、
真っ赤な顔して仮寝する。
いつかの正月、雪雲しょって、
やつは帰ってきたという。
滞在中は毎日雪で、
初詣にも行けやしない。
父さん母さん、やつ本人も、
あやうく風邪をひくところ。
「仕事始めだ、じゃあ元気でね」と、
去るなり雪は止んだという。
「何しに帰ってきたんだか」
電話でわたしに愚痴る母。
けれど声音は弾んでいます、
笑顔がばれてる嘆き節。
わが弟は雪男、
情こまやかな孝行もん。
きみのアネキに生まれたわれは、
ざらには居ない果報もん。
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