ジヴェルニー/藤原絵理子
悪い人が一人も登場しないお話がいいと思った
山も谷もなく 主人公は風に靡くすすきの穂で
ささやかに生まれて ささやかに暮らして
そしてささやかに死んでいく それだけのお話
セーヌの流れは名も知らぬ木立の向こう
ようやく芽吹いた樹に 宿り木だけ緑濃く
流されていくオールのない舟
あてのない旅がパステルカラーの風景に滲む
白い髯の老爺は
わたしを透かせて
花に踊る光の粒子を見つめていた
グレーの髪の園長先生がやさしく微笑む
すべてが包み込まれておとなしくなる
園庭の葉桜に集まった小鳥のさえずりだけ
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