対話篇 ?/やまうちあつし
部屋を埋め尽くし
ひとのこの姿が見えない
こんなことなら
一度でも触れたらよかった
かの人の左わき腹
今でもぱっくり開いている
古い傷跡に
そうすればかの人の痛みが
少しは理解できたかも
その痛みとはとりもなおさず
わたしの
そして
わたしたち全員の
痛みであったはずなのに
もはや
後の祭り
黒い毛並みに埋もれながら
呆然と手を伸ばす
そのとき
真っ黒い液晶画面から
かすかな光
画面の向こうから
声がする
か細いが
芯のある声
「エッファタ」
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