対話篇/やまうちあつし
残業で
すっかり遅くなってしまった
疲れた身体を引きずって
車のドアを開け乗り込むと
助手席にいる
随分大きくなった
初めて出会ったときは
小さな子猫ほどだったのに
ある日突然
姿を現したこいつは
いつの間にか車に乗り込み
毎日の帰路を
ともにするようになっていた
日を重ねるごとに成長し
どうも猫ではないらしい
と感づいたときには
言葉さえ話すようになっていた
「長いことかかったな」
黒ヒョウが言う
繁忙期だからね
仕方がないんだ、この時期は
「残業のことじゃない」
そう言って黒ヒョウは
器用にシートベルトを締める
ネコ科の猛獣とはいえ
物理法則に
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)