告別/石村
 
   我が友、田中修子に




時折西風が吹く
そして天使が笑ふ
するとさざ波が寄せ返し
沖を白い帆が行き過ぎる

砂に埋れた昨日の手紙を
まだ浅い春の陽ざしが淡く照らす
生まれたばかりの小さな蝶が
その上でしづかに羽をやすめてゐる

それで時には幸せだつたのかと
僕はお前に問ふてみたのだが
もうどこにもお前はゐないのだから

こんな風に暖かくやはらかい光に
何もかもがやさしく包まれてゐる午後にも
失はれたものは失はれたままだ
ひえびえとしたさびしさばつかりだ

さうだ去年の今ごろは
硝子の笛を吹いてお前とこの海辺を歩いた
今日とかはらぬ
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