それは猫だった 1/RAVE
見て見ぬ振りをして目的地に急ぐのか
家族連れに尋ねるのか
右か左かの選択を迫られた私は
迷う事なく車を道路脇に停めた。
「どうしたんですか?」
奥さんにそう尋ねると
「仔猫が足を怪我しているみたいで…でも猫アレルギーなので触れなくて…」
と困惑そうに答えてくれた。
その塊は仔猫だった。
だいたい分かっていたけど
やはり仔猫だった。
仔猫は本能的に
右足を引きずりながらも
逃げようとしている。
それは両手に乗る程の大きさで
目は目やにが接着剤のようになって
全く開いていなかった。
真っ暗闇の中に
人の声や気配、車の轟音を感じ取り
しっかりと危険を察知しているようだった。
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