橋/岡部淳太郎
は終った。その疲労で脚韻を踏みながら、僕はただ走る。かつては僕だった森、いまでは僕を支配しつつある森から脱出するために、出口を求めてただ走る。森の中の道ならぬ道を走る。僕が走る。そして道が出来る。僕が走る。そして風が起こる。それでもまだ何とか僕をひき止めようと、遅れた蝉が鳴く。勝手に鳴くがいい。夏はもう終る。季節は幕が上がるように速やかに変る。この夏を惜しむ歌なのか、次の夏を待つ歌なのかは知らぬが、僕は安易な憂愁につきあっている暇はない。ただ走るのだ。出口を求めて、夏の終りを、秋の訪れを、季節の変化を信じて、次の僕を、いまの僕以上に信じて、広い場所に出るのだ。鳥よ、飛べ。枯葉よ、落ちろ。僕は君たち
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