ある読書家の肖像/末下りょう
跡形もなく明け渡したのは 風のような空白の領地
秋めいた空気のなかを
所在なげにゆれる
遊び紙
コーネルにかけた
繊細で散漫な指の終ろうとする
記憶の産声を
軽さをもて余すように 裏表紙から表表紙へと重さを移すページに
乗せて
天秤のような
背表紙との
その束(
の間)
に
けだるく
それでいて
背骨の浮いた背後から はらはらとおりてくる黒髪の 闇の種を
冷たい光の溜まる
鎖骨の湖に
散布しながら
読書家の眠りは
ゆるぎない行間へと埋葬されていく
さらさらと読まれたささやかな書物が さらさらと砂のようにこぼれ始め
閉ざされていくことを知りつつ
紙より薄い深みに 涼やかに明けていく
その家にはもう
誰もいない
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