This is a pen/やまうちあつし
そのペンは眠っている、と聞いた。なるほど、ノートの上をなぞっ
てみても、言葉や文字はおろかちょっとした線や円すら描くことが
できない。インクが切れているのか、ペン先がつまっているのか。
文具店や職人に見てもらっても、何の異常もない。歴代の持ち主た
ちはそんな代物を、どうして大切に受け継いできたのか。それは重
厚で気品ある外見と、文字通り〈眠っていること〉が理由であった。
あるときそれは訪れる。ペンの持ち主は、そこはかとない違和感を
察知して、ひとしきりあたりを見渡す。ふと目を止めたのは、譲り
受けてから眠り続けたままの、一本のペン。まさか、と思ってキャ
ップを外し、紙の上を走
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