南へ進んで愛まで歩いて/かんな
北の先まで歩いて
呪いを解くにはことばを
刻まないといけないらしい
包丁を研ぐには暴言が必要で
持つ手には温もりが必要で
橋を渡るときに気づいたけれど
川は流れていないことに
歩くのは怖い
怖いというのは出会いたくない
と言う私がいるから
洞穴にも崖にも鳥の巣にも
靴ずれにも指の軋みにも
悲しみは住処を作る
食べ物に正しさを練り込んだような
昨日の夕食を思い出す
あの家には誰かが居ただろう
私がいて
私という誰かがいる
君は本の中にいて
君はスプーンの曲った所にいる
南へ進んで
北の先まで歩いて
呪いを解くにはことばを
刻まないといけないらしい
名前を刻んで
そして私を呼んで
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