圏外/岡村明子
やもりが小さく這っていた
指を噛み
においをつけて
私たちの行為が終わる
しみったれた青春の木造二階建て
隣の人は今日も家にいる
ラジオのニュースが空に流れていく
株価の変動は関係ないところで
人々を大騒ぎに巻き込んでいる
すでに毛羽立っているたたみを
爪でひっかきながら
ここにあるたった二文字の財産が
カップラーメンの傍に
無造作に転がっているのを
眺めているだけ
世の中には暑くて出る気がしない
経済とか生産とか縁のない言葉の溢れている世間が
窓の外には広がっていたのだけれど
上を向いて人のいない空に思いをはせるほうが
私たちには上等だった
私たちが発信するものはあまりに希薄で
誰にも関心をはらわれない
窓はあったのだけれど
両腕に毛糸をただひたすらに巻きつけて
夜になったら
また
指を噛み
においをつけて
赤い模様の掛けぶとんにくるまって
ふたりは同じにおいの歴史を感じる
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