詩の日めくり 二〇一七年二月一日─三十一日/田中宏輔
不思議に思うくらいに大きな鯉だったんだけど
ぼくが
「あっ、鯉だ」って叫ぶと
林くんが
学生服の上着をぱっと脱いで川に飛び下りて
その鯉の上から学生服をかぶせて
鯉を抱え上げて川から上がってきたのだけれど
学生服のなかで暴れまわる鯉をぎゅっと抱いた林くんの
これまたお父さんと同じセルの黒縁眼鏡の顔が
それまで見たことがなかったくらいにうれしそうな表情だった
今でもはっきり覚えている
上気した誇らしげな顔
林くんはその鯉を抱えて家に帰っていった
ガリ勉だと思ってた彼の意外なたくましさに
鯉の出現よりもずっと驚かされた
ふだん見えないことが
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