地上の三日月/ホロウ・シカエルボク
はすべてそこにあるということだ、この俺が持つべき牙は?この俺が食らいつくものは?この俺の生きるべき理由は?俺はいつだって自分自身を敵に回す、そうさ、俺にとっちゃフレーズってのは、自分自身を切り刻む刃物みたいなものなんだ、余分なものを削ぎ落して必要なものを残していくのさ、なにが余分なものなのかって?柔らかくてすぐに剥がれ落ちてしまう部分のことさ、もっともーそっちの方を大事にしてる人間のほうが圧倒的に多いんだけどねー昔からそれが不思議でしょうがないんだ、きっとあいつらにゃ、他に信じるようなものを見つけられないんだろうな…本当に値打ちのあるものは探さなければ見つけられないってことさ、トンネルのほうへ歩く、トンネルの入口の横にある、封鎖された道路の先には防空壕の跡があるという話だ、確かめたことはないけどねー破れたビニール傘が歩道の真ん中に捨ててあった、足でそいつを隅へ寄せながら歩いていると、ありがとう、と声が聞こえたんだ、俺は振り返った、けれど、そこにはKOされたボクサーみたいにくの字になって転がっているビニール傘がいるだけだったんだ。
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