言葉の旅/やまうちあつし
 
言葉に足が生えてどこまでも歩いてゆく
一日歩いて倒れる言葉もあれば
一か月歩きっぱなしの言葉もある
中には百年、二百年、いやもっと
歩きっぱなしのものもある
いったい何処まで行くのだろう
近所の公園を横切って出発したと思ったら
次の日にはビル街をさっそうと横切ってゆく
人のいない荒野をとぼとぼと歩き続けて
異国の街中を怯えながら前進してゆく
言葉に生えた強い足は歩くことをやめなかった
時には戦火の中で砲撃を警戒しながら
あるいは圏内を放射能におびえながら
あるいはロックダウンした都市の中心部を虚ろに
あるいは人々の祈りのさ中に光を放ちながら
言葉は歩くことをやめなかった
最初の言葉が旅立ってから数千年が経っていたが
その一番最初の言葉でさえ、まだ
目的地にたどり着いてはいない
(いわんやわたしのまずしいひゆをや)
言葉が話されなくなる日まで
言葉の旅は終わらないという
旅の途中で聞いた話だ

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