愛され上手は死んだよ/中村 くらげ
愛され上手は死んだよ
真冬のベッドを飛び越えて
楽しみにしていた夏を目前に
穏やかな顔をして死んだよ
愛され上手は死んだよ
真冬の隙間をすり抜けて
苦手だった夏を目前に
いつもと変わらない顔で死んだよ
自慢だった髪の毛は
その時も艶やかなままで
優しかった掌は
その時も柔らかなままで
自慢だった羽毛は
その時も鮮やかなままで
優しかった歌声は
その時も朗らかなままで
僕がないて擦り寄ると
抱き上げて撫でてくれていた
愛され上手は愛し上手でもあったのだ
僕がないて擦り寄ると
驚きながら飛び回った
愛され上手は臆病者でもあったのだ
愛され上手は死んだよ
一人と一羽は同じ日に死んだよ
生きた年月は違うけど
一人も一羽もおばあさんというらしい
愛され上手を愛していた人たちは
みんな涙を流して泣いていたよ
人間は悲しい時に泣くらしいから
僕も真似して“にゃあ”と鳴いたよ
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