穴ぐらと重力/天寧
 
薄暗い穴ぐらの奥まった 最も深い底の底
そこにわたしは置いてきた
窮迫したこわもての告訴状
かれらと千切れた
たったひとつの千言を
どうしてもかれらに届けなければならない
いちばん尊い言伝を

だがかれらの歩幅は大きく
その歩調は早すぎて
ものの見事に穴を避(よ)ける
表通りのパレードは
上澄みを掬って通り去る
舞台の壇上が
楽屋の影をますます濃く沈めゆく
忙しい現代人はそそくさと
おのれの生活にかえっていくばかりだ

その戯画がありありと
楽屋裏のスクリーンに展開される
うらぶれた瞼の裏の映像――
ああ それこそがかれらと千切れた世紀の秘密なのだ
ああ
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