姉妹の家/末下りょう
 

ええ、生まれて一度もこの家の敷地を出たことはありません/はい、生まれて一度だけこの家の屋根から海に飛び込んだことがあります/
いつかの夏、この家を飛び出して七日のあいだ何処かを彷徨い歩いていました/確か生まれてまもない頃、この家から木枯らしのような獣に拐われていたことがあるそうです/
冬から冬の一年と決めてこの家を遠く離れた冬のない街で暮らしました/この家から七歩の土くれに風を握りしめて立つ春の人を訪ねたことがあります 足下に落ちる涙に躓きながらの 最初から最後の旅でした )


わたしたちには生活をしていけるだけの遺産が愛のように残されており 
わたしたちには働きに出る理由が夢の
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