朦朧の海辺/サダアイカ (aika)
 
夜から朝の香りが漂いはじめると
冷えた青暗さが産まれてしまい
わたし
朦朧の海の前に立ちつくす

霧に包まれた濃紺の砂浜
埋まってゆく足元を
記憶の波がおしよせて
砂粒軋ませ揺らしてく

浜もわたしも動けない
濡れた叫び声にはならない
波あとわたし残しひく

空に掲げた左右の手
霧の中をさまようが
音ない声は届かない
波に融ろけて両足は
爪先立つことできやしない

どこにもおまえはいやしない

太陽産み出ぬ水平線
鎖骨をなぞる指先が海の香りを吸いこんで
かすれて消えゆく輪郭を
かすかに触れたか
波の音

戻る   Point(5)