朦朧の海辺/サダアイカ (aika)
夜から朝の香りが漂いはじめると
冷えた青暗さが産まれてしまい
わたし
朦朧の海の前に立ちつくす
霧に包まれた濃紺の砂浜
埋まってゆく足元を
記憶の波がおしよせて
砂粒軋ませ揺らしてく
浜もわたしも動けない
濡れた叫び声にはならない
波あとわたし残しひく
空に掲げた左右の手
霧の中をさまようが
音ない声は届かない
波に融ろけて両足は
爪先立つことできやしない
どこにもおまえはいやしない
太陽産み出ぬ水平線
鎖骨をなぞる指先が海の香りを吸いこんで
かすれて消えゆく輪郭を
かすかに触れたか
波の音
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