遺失物/飯沼ふるい
いまどき
おっぽろった釣り銭のために
自販機へ土下座しなきゃならないなんて
陰に指を差し込めば
なんだか懐かしい冷たさと砂の手触り
いつからいたのか
猫が
目礼をかわして飴色に消えていく
せめて穴だらけの帰属意識を笑え
あ、哀しみの死骸
硬い殻に匿われた灰色の脚に
砂やほこりが絡まっている
お、憎しみの死骸
つやつやした湿りの残る肉が地べたを濡らしている
陰の底で、いのちの群れは
青々と輝いて
でもごめんね
進んで触れようとは思えないよね
今が通り過ぎていくまで
ちょっと待ってて
指先の皮が硬化せんばかりに
地べたをまさぐる
それでも釣り銭は出てこない
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)