はるかな記憶/道草次郎
 
何かとても感動した夢を見たのに
きれいさっぱり忘れてしまった
忘れたことはまだ辛うじて覚えている
だが、もうじき
夢見たことも忘れてしまうはず
だからこうして書き残しておく
ぼくはいま
前世の記憶を持つ子供たちのドキュメントのことを考えている

*

もう忘れてしまった
でもこうして書き付けておいたので
記憶の残滓、その中の最後の残りかすを瞼の裏に思い出そうとしている
未来と過去に延びた永劫の道のどこかに落とした忘れ物
ぼくはいま
受精から出生に至る十月十日がまるで生命の歴史そのものだという風説を愛している

*

保存したはずのメモリーを遺失した
思い出せない
記憶のような何かだった
浅く刻まれた爪痕でさえ時の縫合にその身を委ねるだろう
ぼくの頬をいま
あどけない地球が転がってゆく

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