詩の日めくり 二〇一四年六月一日─三十一日/田中宏輔
 
二〇一四年六月一日 「偶然」

 あさ、仕事に行くために駅に向かう途中、目の隅で、何か動くものがあった。歩く速さを落として目をやると、飲食店の店先で、電信柱の横に廃棄されたゴミ袋の、結ばれていたはずの結び目がゆっくりとほどけていくところだった。思わず、ぼくは足をとめた。
 手が現われ、頭が現われ、肩が現われ、偶然が姿をすっかり現わしたのだった。偶然も齢をとったのだろう。ぼくが疲れた中年男になったように、偶然のほうでも疲れた偶然になったのだろう。若いころに出合った偶然は、ぼくのほうから気がつくやいなや、たちまち姿を消すことがあったのだから。いまでは、偶然のほうが、ぼくが気がつかないうちに、ぼく
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