世界の破壊者/佐々宝砂
 
世界の破壊者は片手を上げ
まわりに誰もいないのに気づくと
片手をおろした

海は波の触手を伸ばして陸に襲いかかり
さらには沸騰し
現在は塩酸になるか硫酸になるか悩んでおり
山はもちろんのこと噴火し
火砕流を起こすのと
溶岩をどろどろと流すのと
どちらが楽しいかで議論が紛糾している

世界の破壊者は
地球の表面をどうにかするのに飽いたので
小惑星を落としてみようかと思ったが
それも前世紀にやった手だと思い出して

むかしむかしのスポンサーが
ラジオで伝えたように
「戦え」と一言告げようとしてみたが
動き出した死者たちが
生者そっちのけで戦いあうものだから
うんざりしてまた手をあげる

人々よ

本当に終わりだ
終わるのだ
世界は終わる
毎日終わる

おまえがそれに気づかぬだけだ

世界の破壊者はためいきをつき
あげていた左手を再びおろす
世界は今日もいくたびも終わり
いくたびも生まれ
世界の破壊者は労働に疲れた腕を
ゆるゆるとさすって椅子に座り込む
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