えろちしずむ/あらい
 
よ。
 彼はきっとパンドラの箱だったのやもございませんね。
 ええ、一体中身は何銭入っていたのやら、いい音ばっかりを立てて落下した刹那の嘲笑が石ころと区別がつかなくなりましたので私、どうやら道に迷ってしまったようでございますが。
 一文無しは路頭に這いつくばりながら わがままの蛾蟲となりました。それでも未だに玉手箱の中無限の胡蝶が湧いているのですから。

 夏の間に挟まってしまった 黒黒と空いだ影だけが奔る、微動だにしない蛹の変容体、秘がいつまでも鎮まぬ 瞼を失くした眼球運動の 嬰児たちはガリガリと臍を咬む。
 憶測の心象であることはわかりきっているのだよ、きみは。
 だから、ここに生まれてきたのだと、私は針の筵の上で几帳面にも産毛を並べている、ただその底にもがれたら、泣いているだけのしわしわのあかむくれ、変わり果てたミイラでも、何でも好きなように愛でるがいい。よいのだともうゆるしをえているのだ。
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