墓碑銘 ?/滝本政博
 
生まれ そして 死にました
子供であり父であり祖父でした
馬に乗ってとぼとぼと歩きました
汽笛を鳴らし 出発しました
乾きと空腹のなかにいました
熱風のなかにいました
戦禍に巻き込まれてゆきました
銃を担ぎどこまでも歩きました

ほら 空はこんなに薄っぺらい蝶の翅
開閉し 反転する影絵だね
鳥影は擦り切れた音盤の中を飛び
歳月もぐるぐる回って過ぎて行くのです

収穫の秋に子供が生まれました
子供は春には走りまわりました
子供は犬を飼い
何処に行くにも一緒に連れまわしました

生き そして 死にました
あの人を愛しました
あの人にあうときは なにごともうわの空
駆け出して 胸に飛び込みました
あの人は毛並みにそって撫でてくれた
ひっくり返ってみる 
でんぐり返ってみる
あの人の胸の中で

ほとんど眠れませんでした
病院のベッドにいました
病院を抜け出して映画を観にゆきました
サーフィンの映画でした
スクリーンに海が映りました
ああ なんという美しさでしょう
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