コンデンス/平井容子
 



母は、
なまえはつけないほうがいいよ
と冷蔵庫にむかって
言いつづけた

寝ているときは
ずっと怒っている
車をひっくり返し
おとこを犯し
ベランダに放火し
エレベータをさかさまに走った

・電子レンジの中で
・沸騰しつづけるミルク

3LDKの王国の
昔話はここらへんでおしまいです
たしかに、
なまえがなくてよかったと
安心した日々もあったかな

・回想はいつも
・突沸する

わたしたちは
かつて自分より
はるか尊かった夢の前で
例外なくむくんでいて
安心しながら
のどを焼くあまさに
いつもなだらかに狂っている


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