ばばちゃん/望月 ゆき
 
ちゃんのとなりで
ばばちゃんのために
ではなく
バレーボール部のあこがれの先輩のために
15段ほどすすんだころ
いつもおじいちゃんと交代した


建て替えをしていた家が完成してすぐ
ばばちゃんは死んだ
死んだ日のことはよくおぼえていない
年の瀬のにぎやかな商店会のアナウンスの中
ただ
意味を忘れられたバリアフリーの言葉と
一度も握られることのなかったトイレの手すりが
無機質にたたずんでいた


(ばばちゃんは、
 わたしのこと、嫌いじゃなかった?
 わたしのこと、憎んでなかった?)


ばばちゃんの死んだ日のことは
よくおぼえていない
浮かんでくるのは
うすく紅をさした、くちびる
(そうして、それはまさしく、くちびるの部位だけなのだ)
泣きじゃくる妹の横で
泣かないおかあさんと
泣けないわたしの
うしろすがた
ただ それだけ


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