ばばちゃん/望月 ゆき
はおかあさんの顔が好きだった
幼稚園の遠足で わたしは
お弁当をすこし残して帰った
箱をあけたばばちゃんの顔色が
一瞬にして変わった
鬼だ、と思った
ものすごい形相でわたしを罵倒しながら
右手に包丁をにぎっている
わたしはせまい居間を逃げまわった
さいごはこたつにもぐった
もうすぐ動かなくなる右手で
ばばちゃんがわたしを刺した
かどうかは知らない
そこまでで記憶は終わっている
ずっと聞きたかったことが聞けないまま、
ばばちゃんはどんどん、子供になってゆく
中学一年のわたしは
病院の白いベッドの脇にすわって
マフラーを編んでいた
ばばちゃ
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