谷へ降りてゆく/滝本政博
彼女は持つ
花を 花に似た見目姿を
その花が育ってゆく時間を
温かい自嘲を 揺れるブランコを
隠している本当の名前を
潮の満ち引きを
握り拳の中にあるものを
下降と上昇と停滞を繰り返す不思議な涙を
彼女のことがわからない
そこが魅力
近づこうと重なり合ってみるが 遠くにいる人
少し歩かないとね
その前に煙草を一本 いや 二、三本
その後で 彼女の谷へと降りてゆく
わたしと違うところを盗掘
その美点 焔の財宝
こんなに惹かれている
触れられない熱さ眩しさに手を翳している
彼女は持つ
扇を 形よく開く足を
曲線に沿ってこんもりと茂った森に隠れている小鳥や獣を
誕生日と育ってきた日々を
(外は晴れていました、雨が降っていました、大風でした)
鳥籠に閉じ込めた黒猫を
首輪をつけて飼いならした不機嫌を
彼女はオレンジのように青ざめて
腐ってゆくマンゴーのようによい香り
彼女の秘密を夜のランプが照らす
甲虫がそれを食い破り秘密は散り散りとなる
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